ビルメン(ビルメンテナンス)業界への転職を検討している方の中には、
「人と話すのが苦手だから、黙々と点検するだけの仕事がしたい」
と考えている方も多いでしょう。
何を隠そう、私がその1人でした。
ネット掲示板などでは「ビルメンはコミュ障の天職」と書かれることがあります。
確かに、営業職のように数字に追われ、接客業のように毎日初対面の相手に頭を下げ続けるストレスはないですが、現実はそれほど単純ではありません。
結論から言えば、「雑談力」や「陽気な愛想」は不要ですが、
「なるべく人とかかわりたくない」と考えている人は、ビルメンとして働くのは難しいのではないかと思います。
本記事では、現役ビルメンの視点から現場で必要となる「コミュニケーション」について解説します。
ビルメンへの転職を考えている人の参考になれば幸いです。
「ビルメンはコミュ障でも大丈夫」という誤解の正体
まず、なぜ「ビルメン=コミュ障向け」というイメージが定着したのかを整理しましょう。
それは、営業職のように「自分を売り込む」必要がなく、接客業のように「常に笑顔で愛想を振りまく」必要もないからです。
仕事の対象はあくまで「設備(機械)」であり、ルーティンワークが中心であることは間違いありません。
しかし、現場で働くようになるとすぐに気づきます。
「機械は文句を言わないが、機械を扱うのは人間であり、機械が壊れて困るのも人間である」という事実に。
ビルメンが扱うのは、電気、空調、給排水といった「建物のライフライン」です。
これが止まったとき、私たちは必ず人間(テナントやオーナー、利用者)と対峙することになります。
この有事の際の対応こそが、ビルメンの仕事の本質なのです。

ビルメンに不可欠な「3つのコミュニケーション」
ビルメンの現場で遭遇するコミュニケーションは、大きく3つに分かれます。
① 職場内でのコミュニケーション
ビルメンの仕事は、一人で完結するものではありません。
多くの現場は24時間365日体制であり、宿直(24時間勤務)を含むシフト制で動いています。
ここで求められるのは、「情報共有」です。
多くの現場では、2人〜10名程度のチームでビルを守ります。
自分が勤務している間に起きたことは、自分一人の完結した出来事ではなく、「チーム全員が共有し、責任を負うべき問題」となります。
自分がいい加減な対応をすれば、そのしわ寄せは必ず後続のメンバーに及びます。
そのため、、次にシフトに入る人が、迷わず、安全に、滞りなく仕事を引き継げる状態を作っておくことは、チームの一員としての最低限の義務なのです。
「聞いていない」が最大の不信感を生む
例えば「空調の異音」の調査依頼に対し、部品交換が必要だとわかっていながら、次の方へ伝えず帰宅したとします。
翌日、あなたが休みの間にテナントから催促が来た際、同僚が「聞いていません」と答えれば、チーム全体の信頼問題になります。
② テナント(お客様)とのコミュニケーション
ビルメンは技術職であると同時に、サービス業でもあります。
オフィスビルの入居者(テナント)や商業施設の店員さんは、いわば「お客様」です。
「オフィスが暑い」「トイレが詰まった」「電球が切れた」といった依頼に対し、ただ作業をするだけでは不十分です。
- 状況のヒアリング: 「いつからですか?」「どのような音がしましたか?」と、相手から情報を引き出す力。
- 状況の説明: なぜ故障したのか、いつ直るのか、どのような対処を行ったのかなど、専門用語を使わずに分かりやすく伝える必要があります。
- 丁寧な物腰: 決して下手に出る必要はありませんが、不機嫌そうな態度や無愛想な対応は、すぐに「あの担当者は感じが悪い」というクレームに繋がります。
私の身近な人にも、態度が悪い(挨拶をしない、物が壊れた際に相手を責めるような物言いをした)という理由で、異動になってしまった人がいます。
③ 外部とのコミュニケーション
自分たちで直せない大きな故障が発生した場合、専門業者を呼ぶことになります。
この際、ビルメンは「オーナー・テナントと業者との調整役」になります。
- 業者への説明: 「どこが、いつから、どうおかしいのか」を的確に伝え、見積もりを取る。
- オーナーへの稟議: 修理費用を承認してもらうため、故障の緊急性と妥当性を説明する。
- テナントとの調整:テナントの業務に支障がない日時を調整する。
「業者・テナント・オーナー」の三者間を繋ぐ橋渡しこそ、ビルメンが特にコミュニケーション能力を試される場面といえます。
しかし、ここで必要なのは「交渉術」ではなく、「調整の段取り」です。
電話やメール、対面での確認作業を一つひとつ丁寧に行う誠実さがあれば、問題ありません。
コミュニケーションが苦手な人の「生き残り戦略」
ここまで読んで「やっぱり自分には無理だ」と思った方もいるかもしれません。
しかし、諦めるのは早いです。
コミュニケーションが苦手なことを自覚していれば、取れる「戦略」があります。
戦略①:圧倒的な「資格」で発言権を得る
ビルメン業界は、学歴や職歴よりも「資格」が絶対的な力を持つ世界です。
ビル管理には、法律で設置が義務付けられている資格が多数あります。
- 電気主任技術者(電験三種)
- 建築物環境衛生管理技術者(ビル管理士)
- エネルギー管理士
特に、これら「三種の神器」と呼ばれる資格を持っていれば、会社はあなたを簡単に手放せなくなります。
「あの人は少し無口で愛想がないけれど、電験を持っていて選任されているから、この現場には不可欠だ」という評価が確立されれば、多少のコミュニケーション不足は「職人気質」「寡黙なプロ」という言葉で好意的に解釈されるようになります。
戦略②:現場選びを間違えない
【避けるべき現場】
- ホテル・商業施設
24時間不特定多数の「お客様」がいます。
突発的なクレームや、緊急の呼び出しが絶えません。
高いコミュニケーションスキルが求められることが多いです。 - 病院
看護師さんや医師とのやり取りが非常に多く、独自の緊張感があります。
【狙い目の現場】
- データセンター
入館管理が極めて厳格で、部外者がほとんどいません。
ルーティン点検の比重が非常に高く、マニュアル化が進んでいるため、落ち着いて仕事ができます。 - オフィスビル(BtoB)
土日は休みになることが多く、テナントもビジネスパーソンなので、理不尽な振る舞いは少なめです。 - 工場・倉庫
広大な敷地を黙々と点検する時間が長く、対人接触を最小限に抑えられる傾向があります。
まとめ:完璧である必要はない、だが「拒絶」はNG
ビルメンという仕事において、芸人のような喋りは1ミリも必要ありません。
必要なのは、「報告を怠らないこと」「相手に敬意を払って丁寧に接すること」という、社会人として極めて基本的、かつ事務的な態度です。
ビルメンは、不器用な人が「技術」という武器を手に、静かに、しかし確実に社会のインフラを支えていくことができる素晴らしい職業です。
「人と話すのが大好き」である必要はありません。
「仕事として、最低限必要な対話はこなす」という覚悟さえあれば、ここはあなたにとって最高に心地よい「居場所」になるはずです。
あなたの新しい、そして穏やかなキャリアが始まることを応援しています。

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