「ビルメンテナンス(ビルメン)の宿直って具体的に何をしているの?」
「24時間勤務なんて、ずっと働き詰めなんじゃないか?」
こうした疑問を持つ方は多いでしょう。
ビルメンの働き方は、一般的な事務職や製造業とは大きく異なります。
特に「宿直(しゅくちょく)」は、この職業の最大の特徴であり、人によっては「天国」にも「地獄」にもなり得る特殊な勤務形態です。
今回は、現役ビルメンの視点から、宿直の1日の流れをモデルケースとして紹介し、そのメリット・デメリットについて解説します。
ビルメンへの転職を考えている方は、この記事を一つの目安にして『自分に宿直がこなせそうか』をイメージしてみてください。
もちろん、体調や家庭の事情で宿直が難しいという人もいるはずです。
日勤のみの現場も意外と多いので、求人を探すときに最初から希望を伝えておきましょう!
宿直当日の流れ
【朝】準備と引き継ぎ
出勤・準備
朝、少し早めに出勤して作業服に着替え、常備品を身につけます。
- マスターキー・各種鍵束
- ネームプレート・入館証
- ライト・工具類(小さいドライバーなど)
- 内線電話(PHS等)
自分が休み明けの場合、この時間に必ず行うのが「業務日報」のチェックです。
不在時にどんな異常があったか、どんなクレームが入ったかを把握しておくことは、二次災害を防ぐために不可欠です。
朝礼
前日の宿直者から、当日の勤務者へバトンタッチを行います。
「洗面台から水が漏れているとの依頼があり、パッキンを交換して復旧しました」
「前日に予定していた定期点検ですが、突発の依頼が重なり一部未実施です」など・・・
前日の作業内容、未対応業務、本日の作業予定などの情報を共有します。
【日中】点検と依頼業務への対応
午前:ルーティン点検
ビルメンの基本は「巡回点検」です。
空調担当、給排水・電気担当などに分担して点検を開始することが一般的です。
各フロアの空調機の状態やポンプの運転状況などを、五感(音・振動・臭いなど)で確認します。
基本的には一人でのルーティンワーク。
異常がなければ自分のペースで進められるため、この時間は精神的に非常に穏やかです。
午前:依頼業務への対応・待機
点検が終わると、拠点となる「防災センター(管理室)」に戻ります。
ここからはテナントからの「不具合対応(修繕)」がメインになります。
- 備品管理:切らしている管球やパッキンなどをリストアップし、事務所へ発注。
- 営繕作業:「オフィスの電球が切れている」「洗面台の水が出ない」という不具合への対応。
現場を確認し、部品交換などでその場で解消できた時の達成感は、ビルメンの醍醐味です。
★ここがポイント:待機時間の有効活用
依頼がない時間は、防災センターで「待機」となります。
就業場所のルールにもよりますが、基本的には一般常識の範囲内であれば自由に過ごせます。
入ってばかりのころは、分からないことが多いと思いますので、過去の資料を閲覧したり図面を確認したりすることをお勧めします。
基本的なことができるようになれば、最高の資格勉強の時間になります。
午後:専門業務・業者立ち会い
午後はそれぞれの点検が終わり人数がそろいます。
そのため、比較的時間がかかる作業、重めの作業(複数人でする必要がある作業)、外部業者の立ち会いが入ることが多いです。
- 業者対応:業者が行う保守点検や専門的な修理の立ち会い・鍵貸し出し
- 定期メンテナンス:ボイラーの全ブロー(古い水を抜いて入れ替える作業)、給水設備点検、フィルター清掃など
- 営繕作業:部品交換では復旧せず、本体を一式交換する必要がある場合など。
【夕方〜夜】宿直の「真髄」が始まる
夕方:終礼・リフレッシュ
日勤のメンバーが帰る前に、1日の進捗を共有します。
宿直者は次の日のメンバーに業務内容を引き継ぐ必要があるため、自分がした作業以外のことも把握しておく必要があります。
その後、宿直者は夜の勤務に備えてシャワーを浴びてリフレッシュ。
夕方〜夜間:フリータイム(待機)
日勤者が帰り、建物内に宿直者だけ(宿直者が2人の現場もあり)の時間になります。
ここからが宿直の真骨頂。
大きなトラブルがない限り、基本的には
「防災センター(管理室)」で「待機」です。
- 食事・自由時間:夜ご飯を済ませ、読書、ネットサーフィンなど。
- 資料閲覧・自己研鑽:宿直を始めたばかりであれば、過去のトラブル報告書を読むのがおすすめです。
過去の事例を知っているといざというときの判断に役立ちます。
慣れてきたら本格的に資格勉強に励むのが鉄則です。
※緊急性の低い依頼(例:「デスクの棚の調子が悪い」など)は、「明日日勤者が対応します」と切り分ける判断も必要です。
夜間:館内巡回
誰もいなくなった夜のビルを回ります。
照明が落ちた静寂の中、重要設備に異常がないか、施錠漏れがないかをチェック。
異常が特になければ、再度「防災センター(管理室)」で「待機」します。
深夜〜早朝:仮眠と最終チェック
仮眠室へ移動します。
もちろん、火災報知器や設備警報が鳴れば、即座に飛び起きて対応しなければなりません。
熟睡は難しいですが、貴重な休息時間です。
起床後は、中央監視盤にて一日のデータ推移を確認・記録します。
中央監視盤とは?
ビルの電気、空調、給排水、防災などの設備状態を一括で管理・制御するシステムです。
各設備の作動状況や異常が画面にリアルタイムで表示され、異常時には警報が鳴る、いわば「ビルの司令塔」です。
朝:引き継ぎ・開放
新しい勤務者へバトンタッチ。この瞬間の開放感は、ビルメンにしかわからない最高の快感です。
宿直勤務のメリット:なぜ「天国」と呼ばれるのか
「24時間拘束」という言葉の響きからは想像できないほど、宿直には現代の働き方にマッチした利点が多く存在します。
① 時間という最強の資産【給料をもらいながら勉強できる】
ビルメンの宿直における最大のメリットは、何といっても「待機時間」の存在です。
- 資格勉強の聖地: ビルメン業界は資格がモノを言う世界。
夜間にトラブルがなければ、職場がそのまま自習室になります。
自宅ではついテレビを見たり寝てしまったりする人でも、適度な緊張感がある職場なら集中できます。
「給料をもらいながら、自分の市場価値を上げるための勉強ができる」という環境は、他の職種ではまずあり得ません。
② 金銭的メリット【手当で稼いで、光熱費を削る】
宿直は、通帳にも優しい働き方です。
- 宿直手当の積み上げ: 宿直手当は基本的に1回あたり数千円であることが多いです。月に複数回入ればそれだけで数万円になります。
これは基本給の昇給を待つよりも遥かに早く、確実に年収を底上げする手段となります。 - 究極の節約術: 月の約半分を会社で過ごすということは、自宅の電気・ガス・水道を一切使わないということです。
「会社でスマホを充電し、会社でシャワーを浴び、会社の空調で過ごす」。
これだけで、一人暮らしなら月々の光熱費を数千円単位で浮かせることが可能です。
ただし、最近は物価高でコンビニ弁当ばかりだと手当が食費に消えてしまうので、自炊や持ち込みがおすすめです。
③ 「明け休み」が生む圧倒的なQOL(生活の質)
宿直が終わった後の「明け休み(非番)」こそ、ビルメンが最も愛する時間です。
- 平日の特権をフル活用: 多くの人が働いている平日の昼間に、あなたは自由の身です。
役所や銀行の手続きはもちろん、人気のレストラン、ジム、美容室、映画館など、どこへ行っても空いています。 - 連休のような感覚: 「宿直→明け→公休」というリズムになれば、実質的な拘束は1日だけで、残りの時間はすべて自由時間のように感じられます。
このリズムに慣れると、週5日フルタイムで働く生活には二度と戻れないという人も多いです。
④ 人間関係のストレスからの解放
少人数体制の気楽さ: 日勤帯は上司や同僚、フロント(事務)など多くの人がいますが、夜間は1人、あるいは気心の知れた相方との少人数体制になります。
他人の目を気にせず、自分のペースで仕事(監視)ができる時間は、内向的な人や一人の時間を好む人にとって最高の癒やしとなります。
宿直勤務のデメリット:覚悟しておくべき「リアル」
メリットが強烈な分、避けられない「影」の部分も存在します。
これらを許容できるかどうかが、宿直を続けられるかの分かれ目です。
① 圧倒的なプレッシャー【静寂を切り裂く警報音】
宿直中、最も心臓に悪いのが「深夜の警報」です。
- 初動対応の孤独: 例えば、火災報知器が鳴った際、現場へ駆けつけ、火災か誤報かを即座に判断しなければなりません。
誤報であれば速やかに復旧させ、本物の火災であれば消防への通報と館内放送、避難誘導を行います。
日中であれば全員で対応するトラブルも1人で対応することになります。
② 身体的・精神的な「蓄積疲労」【熟睡できない「浅い眠り」】
「寝ているだけで楽」と思われがちですが、身体への負荷は確実にあります。
- 仮眠の質の低下: 「いつ警報が鳴るかわからない」という緊張感から、脳が深い睡眠に入りにくくなります。
物音に敏感になり、熟睡できない日々が続くと、自律神経を乱してしまうリスクがあります。 - 生活リズムの崩れ: 朝に帰宅して昼過ぎまで寝るという生活を繰り返すと、体内時計が狂いやすくなります。
家族や友人と生活リズムが合わなくなるため、孤独を感じる瞬間もあるかもしれません。
③ 「相方ガチャ」という運任せの人間関係【逃げ場のない24時間の密室】
少人数体制はメリットでもありますが、相手が「苦手な人」だった場合は地獄に変わります。
- 密室での24時間: 宿直が2人体制の場合は相方が誰になるかで、その日の「天国度」が180度変わってしまうのが宿直の恐ろしさです。
性格が合わない、清潔感がない、あるいは一晩中ずっと説教や自慢話をされる……。
そんな相手と狭い管理室で一晩中過ごすのは、精神的な拷問に近いものがあります。
まとめ:まずは一度、体験してみるのが近道
「24時間勤務」と聞くと身構えてしまいますが、慣れてしまえば「意外となんとかなるな」というのが、多くの現役ビルメンの本音です。
もちろん責任はありますが、何もなければ自分の好きなことに時間を使える。しかも手当も出る。
そんなちょっと特殊で、でも美味しい働き方がビルメンの宿直です。
「自分にできるかな?」と悩むより、まずは宿直ありの現場に飛び込んでみて、明け休みの開放感を味わってみてください。
一度あの「平日昼間に帰れる感覚」を知ってしまうと、もう普通の会社員には戻れなくなるかもしれません。


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